日本人と鉄道の哲学

福嶋 日本人はともかく鉄道が好きで、鉄道が地域のアイデンティティになっていたりもしますよね。東日本大震災でも南三陸鉄道が復興のシンボルになり、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のように鉄道を主題にした作品も多い。日本人からすると当たり前でも、外国人には新鮮に見えるようです。

佐々木 ヨーロッパも一時期はオリエント急行のような長距離特急があったり、庶民向けの鉄道文化も盛んだったりしましたが、急速に車社会へ移行したんですよね。日本にも高速道路はたくさんできたけれど、どこへでも車で移動するという社会にはまだなっていない。

福嶋 特に東京のような都市はそうですね。

佐々木 鉄道に乗ることが生活に密着していますよね。普段使っている駅で長距離の特急などを見ると、これに乗れば遠くへ行けるんだという気持ちが湧いてきます。私は新宿駅と池袋駅をよく使いますが、新宿には特急「あずさ」が発着するので、これに乗ると信州へ行けるんだな、とよく想像するんです。

福嶋 そういえば、新海誠監督の新作『天気の子』はまさに「山手線アニメ」なんです。善悪はともかく、山手線から見えるマスイメージ的な風景によって東京を象徴させている。新海さんも長野の人ですよね。

佐々木 佐久のご出身だったと思います。

福嶋 作中でも、主人公が上京してきた時の体験がかなり強く描かれている。やはり東京の都市的なイメージというのは今も山手線の周辺でつくられていると思うんです。

佐々木 私が山手線で一番懐かしいのは上野駅ですね。長野新幹線ができて東京が始発になりましたが、それまで長野へ行くには上野から特急「あさま」に乗ったんです。「うえの~うえの~」というアナウンスがとても懐かしい。上野は終点でしたから、線路が来てそこで終わる頭端式のホームがあって、特急「あさま」や常磐線の特急「ひたち」、東北方面へ行く特急もそこから出ていました。私の幼少の頃は蒸気機関車も停まっていました。今でも、山手線などが走る高架とはちょっと違う古めかしい雰囲気を残していますね。

福嶋 東京はなかなか輪郭が掴みにくい都市ですが、その東京を丸く区切っているのが山手線です。上野駅はその円環のなかで一種の扉のようになっているように思えますね。