哲学対話をどう評価するか

河野 ちょっと話戻しちゃって申し訳ないんですけど、評価の問題なんですけれども、戸谷さんは真面目だなぁという感じがして、私は適当にシラバスに書いて、適当に成績付けている人間なので、そんなに真面目にやる必要があるのかっていうのが、まずそれが第一の解答です。この「いい加減さ」が正解だと私は思ってます(笑)。適当に生きたらどうでしょうかっていうのが一つの提案ですね。就職活動のときには、「この成績、適当な先生が、適当につけているので、信用しない方がいいですよ」と面接されている皆さんに言ってくださればそれでいいんじゃないかなぁと思ってますけど。学部長としては失格の発言をいたしましたが、真面目に言うと、評価というのは一元的にする必要はないので、生徒や学生自身が自分で、自分の活動に対して、どのような評価をするのかっていうのを考えて、自己評価してもらうことが大切だと思ってるんです。自分はここから何を得ようと思っているのかを考えてもらって、その学びによって自分はどのように変化をしただろうかというようなことを、いわば自分の変化の方向性を検知させることが評価の最大の目的だと思うんですね。これが真面目な第二の解答です。ただ第一の解答の方が圧倒的に有効ですので、それをぜひ実践されるといいと思います。
 それで、話さない人についてですが、そういう方たちは、言葉が奪われているっていう状態になってるんだと思うんですね。ただでも、それは日本的なことだなぁとも一方で思うんですよ。よく哲学対話で言うハワイ式かヨーロッパ式かっていうことがあります。ハワイ式ってみんながインクルードされてそこにコミュニティを作ることが第一の目的だという考え方だと思います。もう一つ、ヨーロッパ式はどっちかというと自我のしっかりした子を作るという、質疑をしっかりとして誰に対しても向き合っていくっていうような感じの、対決とは言わないけど対面的な子を育てるっていうような考え方に立っていると思います。例えばオスカー・ブルニフィエなんかはそんな感じの考え方ですよね。彼は、そのあまりに厳しいやり方から、いろんなところから批判されます。私も彼は少しやりすぎかなと思うのですが、ただ一方で彼が目指しているところもわかるのです。多分ヨーロッパやアメリカに留学した人はそういうふうに感じると思うんですけど、何かの発言をして、その場に貢献しなければ存在していないのと同然と思われてしまいます。哲学対話では、発言できない人には何かでカバーしてあげなきゃいけないなぁと思うのと同時に、逆にその人はもしかすると、何もしなくてもその場に居続けることに甘んじて、そうした抱擁的な場所にしか居られなくなるのではないかと思うのです。何も言わなくてもその場にいてよいと思っているというのは、もしかすると、その場にいる他の人たちに依存してしまっているのかもしれないとも思うのですよね。そうなると、その場において責任ある立場に立ちえないのではないかと思うのです。ですから、私は気持ち的には揺れますね。そういう人たちには、表現できるように場を整えてあげなければならないと思うと同時に、自分を表現しなければ、逆に他の人に気遣いさせてしまっているんだという点にも気づいてほしいとも思うのです。しゃべらないことによって他の参加者に気遣いさせているわけです。しゃべり過ぎる人も気遣いさせちゃってるのだけど(笑)。全然しゃべらないで帰っていっちゃう人も、永井さんに気遣いさせてると思うんですよね。ご本人たちは、人が自分に気遣っているのだという点に気づいてないんじゃないかなって思うところがあります。ですが、この問題に関しては、私も考えが揺れていますね。ちょっとまだ考え中のテーマです。半分冗談、半分本気で言うと、哲学カフェでは、「おしゃべりおじさんと寡黙女子」っていう組み合わせが多いんですよね。やたらしゃべるおじさんと、黙り込んでしまう女性っていう場面が、しばしば状況として生じると思うんです。これをどうしたらいいかというのが、いつも私のテーマです。こうした傾向は、子どもの頃からあって、おしゃべりな男の子と黙っちゃう女の子っていう状況が、特に小学校5、6年生から、ジェンダーを意識するようになってくると出てくるのです。4年生までは、話す話さないは個性の問題であって、ジェンダー差はあんまりないのです。この偏りをどういうふうにしたらいいのかなというのは、結構、深刻な問題です。「女の子がしゃべりにくいのでは、その場のあり方が駄目じゃないか。他の人に問題があるのではないか」とも思うし、逆に話さない女の子に、「全然話さないのは、逆に人に気を遣わさせちゃってるんだよ」とも言いたい気分もちょっとあるんですね。だからここは難しい問題です。まだ解決が得られてないし、まだ私の考えに偏見があるのかもしれないです。

渡名喜 それは面白い論点ですね。戸谷さん、何か応答なさりたいことがあるんじゃないでしょうか(笑)。