渡名喜 どうもありがとうございました。皆様お話を聞いていろいろお伺いしたいことはありますが、先ほど河野先生が大学の話はまた後でとおっしゃっていました。大学での活動に加え哲学対話の国際的な広がりというのも河野先生が主導なさっていると思いますが、その辺についても補足いただけないでしょうか。

河野 大学だとですね、普通の授業で、私の授業自体が哲学対話みたいな感じがします。大学の授業では学生にプレゼンをやってもらうことはあると思いますが、普通、例えば15分くらいプレゼンしてもらうと5分質問応答で終わるじゃないですか。それを逆に15分発表してあと45分ディスカッションしてもらいます。最初は哲学のテクストを使い、その後みんなで「なぜなぜ攻撃」【注2】をしてですね、そうするとしばらく経ってくるとみんなお互いになぜなぜ攻撃をするようになるので、そうすると自然と考えも対話内容も深まってきます。自慢するわけじゃないですけど、私のゼミで1年間くらいこれをやると自然に小学校へいっても子どもの哲学ができるようになると思います。ですので、このスキルは色んな場面で使えるかなと思います。

渡名喜 国際的なほうについてはいかがでしょう。

河野 2022年の8月5日から11日まで、「子どもの哲学国際学会」という子どもの哲学の最大の国際学会を立教大学に招致することにいたしました。教室を超えていく哲学、教室外で哲学対話していくというのはどういう活動なのだろうかが、大会のテーマとなります。かなりの数の応募がありました。観光ツアーもあり、6日から7日がプレカンファレンスワークショップでいろんな国からのワークショップがあります。アメリカ一つ、南米から一つ、日本が二つで、もう一つは東南アジアからも一つあります。そこでいろんな実験的なワークショップをやってもらいます。それで、8日から11日が普通の学会になります。テーマは先ほど言った、「教室を超えていく」子どもの哲学となります。現在学会の会長はイスラエルの方なんですけども、多文化的な、多宗教的な対話を実践している人で、まさに教室外で、子どもの哲学を実践しているような方だと思います。ハイブリッドでも行いますので、ぜひ来年、立教にいらっしゃってもオンラインでも結構ですので、見にいらしてください。世界では、とても自由な形でいろいろな実践がなされていることがわかると思います。日本人はどうしても、何であれ、「正しい唯一の形」があると思う人が多いのではないかと思います。「これが正しい形だ」ってお作法みたいに考えてしまう。海外の方が来ると、逆にいい意味でのいい加減さというかちゃらんぽらんさが花咲いてですね、とても面白いことになると思います。ぜひそういう活動を見て、目を開いてもらうためにですね、参加してほしいなと思ってます。

渡名喜 今も少し紹介してくださいましたように、国際的にこんなに哲学対話が展開されているとのことですが、やはり日本における哲学対話と他の国での哲学対話は、傾向といいますか雰囲気といいますか、同じところと違うところがある気もします。どういうふうに見ていらっしゃいますか。

河野 基本そんなに変わらない気はします。学校でやるときには、学校の制度や文化がバリアーになる傾向があるのですが、これも各国で似たような事情のようです。ハワイにいるジャクソン先生というカリスマ的なP4C(Philosophy for Children)の教授がいるのですけれども、彼はいつもニコニコして決して人の悪口を言わないような人なのだけど、私には本音を話してくださいました。そこで、「実を言うとアメリカでも学校の先生ってホント固くて、やっぱり何か教え込もうとする傾向が強くてね、そこを崩すのが大変だった。今でも大変なんだよ」ということを言ってくれました。そうした点は、日本だけでなく、他の国もそうだと思うのです。学校という近代的な制度の問題点は、国際的にも似ているところがあると思います。ただ、日本に無くて外国にある特徴と言えば、そうですね、例えば私がカンボジアなんかに行って感じたのは、コミュニティボール【注3】を使えないんですよね。何でだと思います? 人に投げて物を渡すのは大変に失礼な行為だと思われているのですね。あと仏教のお坊さんがその場にいると、そのお坊さんの発言を尊重して、他の人が話さないという傾向もあります。これは、一種の権威主義なんですけれども、その国の特徴は、どこと比較するかで随分と異なって見えると思います。日本人はあまり対話で発言しないと言いますが、別にP4Cをやってる限り、あるいは哲学カフェをやってる限りそんなに他の国と変わらないような気がします。僕はアメリカの大学に行くことも多いんですけど、アメリカの学生や院生はスピークアウトすることはできるけど、ダイアローグは特にうまいとは感じないです。スピークアウトして、そのエビデンスを出してくることは得意だけど、そこからディスカッションして相互に考えを深めていくことに関しては、そんなに特別にうまくないというか、あんまり日本と変わらないように思います。むしろ日本の方がいいんじゃないかと思ったりする時さえあります。それぞれの国の細かな違いはあるんですけど、大まかに言うとそんなに変わらないような気がしますよね。私が鈍いのかもしれないけど。

【注2】「なぜなぜ攻撃」とは、河野ゼミのテクニカルタームで、ある発言に対して何度も「なぜ」とその理由を繰り返し質問して、思考を掘り下げていく質疑応答のこと。ニコニコしながら「それはなぜですか〜」と聞くことがルール。
【注3】哲学対話で使用される柔らかい素材でできたボール。これを回して、保持している人が発言することができる。発言してほしい人にトスすることになっている。