渡名喜 どうもありがとうございます。齋藤先生、いかがでしょうか。
齋藤 はい。私が行なっているのは、主として二つぐらいの活動です。一つは社会人、一般の方々向けのもの、もう一つは大学ということになります。社会人一般向けの方々でやっている対話は、カルチャースクールとかそういうところが中心です。そこに来られる方は、年配の方が非常に多くて、最初は「よくわからないんだけどとりあえず哲学っていう名前に惹かれてやってきました」っていう人が多いんですけれど、徐々に対話を重ねていくにつれて、こちら側が驚くような思考を展開していって、いろいろ話をしてくださるんですね。もちろん、人生長く生きてるとか短く生きているとかいったことは、哲学的な思考には基本的に関係ないというところはあるんですけども、先ほど河野さんがおっしゃったように、ちっちゃい子どもであればあるほど何の前提もなく鋭い問いを出すということがあります。逆に年配の方々になると、それなりの人生の味わいというか、重みのあるさまざまな経験をしていらっしゃって、これはこれで、そういう経験をもとにお話しいただくことで、予想外の思考を展開していくといったことがあります。長い人生経験を経て作り上げた前提をご自身で崩しながら思考を深めていくという作業はなかなかできるものではなく、そうした思考の強靭さには深く感銘を受けます。やはり人間の生き様って変わらずこういう側面があるんだなとか、歳を重ねて老いていくとこういう考え方も出て来るのかな、といった、そういう発見に僕自身もさまざま気づかされるところがたくさんあります。それともう一つは、僕の本務校の高千穂大学というところを拠点にして、学生たちが中心となって行っている対話の活動です。杉並の井の頭線沿いに大学があるので、近隣の大学さんの学生さんと一緒になって行なったりとか、あるいは杉並区に本拠地を置くようなさまざまな団体さんなんかと一緒に行ったりしてきました。コロナ禍の前の段階でも、各大学の対話サークルが大学横断型でお互い話をするという機会が少なかったので、非常に盛り上がりました。今はオンラインで月一回くらいのペースで対話をやってるんですが、そこに来るのは意外にも学生より社会人の方々が非常に多い。年配の方もいらっしゃいますし、普通に仕事を持たれている方もいらっしゃって、非常に和気あいあいと対話が進んでいるような状況です。地域と組んだ例としては、杉並に本拠地をもつ日本フィルハーモニー交響楽団とコラボレーションをして、実際にプロの方に演奏していただいて、それを聞いて対話をするということもやりました。ジョン・ケージの「4分33秒」のような作品を実際にプロの方にやっていただくというようなことも行なったりもしました。演奏者の方々と聴衆お互いそれぞれの立場からいろいろしゃべってみると、これまた作品の見え方がいろいろと変わってくる。以上、これら二つの活動が主たるものです。