選択の自由

今村 キャメラ二台あると後で編集できるけど、キャメラ一台だとこっちを選択したらもうそれで終わりじゃないですか。以前だとこっちに振ろうかあっちに振ろうかちょっとした迷いみたいなものを感じるときがあったのだけど、でも『港町』あたりからだと、絶対こっちに決まっているだろ、ってビシっと決まっていて、これからもキャメラ一台なのかなというのはお聞きしたかったところです。
想田 そうですね、一台です。
柏木 そう、その訓練はやっぱり『演劇』でできたんだと思うんですよね。演技が同時多発なんで[図-8]。

図-8 『演劇 1』

今村 すごいですね。なんであんなことができるのって。
柏木 同時多発の、どこを切り取るかっていうんで、ずいぶん欲を切り落としたっていうんですか。もう決めたらここっていうふうに。マース・カニングハム(Merce Cunningham, 1919-2009)っていう私のすごい好きなモダン・ダンスの振付家がニューヨークにいて、その人の動きや考えを勉強しにいっていたんですけど、その人が亡くなったときにメモリアル公演がフィフス・アヴェニュー(五番街)のすごく面白い場所であって。ものすごいだだっ広いところに、ステージを何台も組んで、同時多発でダンサーが踊るんです。マース・カニングハムがやっぱり同時多発の振り付けで知られている人だったんですね。ステージに一つの中心を作らないんですよ。むしろいっぱい中心を作る。メモリアル公演もそういう感じで、大きいだだっ広い部屋に多数のステージを作って、お客さんはどこに行って観てもいい、と。そのとき私は「これも見たい、あれも見たい、これも見たい、あれも見たい」ってもうこんな感じで、でも想田は私が「こっち面白いよ」って言っても、一個のステージだけをずーっと見ているんですよ。それで、後で、「よく一個だけに選べたね」、って言ったら、「いや、俺はやっぱ平田オリザのときに、全部追ったら全部が見られないとわかった」って言うから、「『演劇』で成長したな、想田」って思って。
想田 何を偉そうに(笑)。