「読むこと」と「書くこと」
田中 最後に、文芸・思想専修を志望する受験生の方に一言ずつメッセージをお願いします。
坂東 文学というのは、単に文字として書かれたものだけではなくて、映画も、演劇も、本当に広い分野の総体を指すもので、文学と関わることはつまり、他者と関わることと同じなんじゃないかと感じています。夏目漱石の『こゝろ』に、「記憶してください。私はこんな風にして生きて来たのです」という文章がありますが、文学というのはこれに尽きるんじゃないかという気がします。自分が今この時代に何をどう思って、どういうふうに感じているのかを伝えたくて文学作品が生まれる。それは、人類が言葉というものを身につけてから現在まで、時間も空間も超えて、無数の他者とつながれる、そんな莫大な広さを持っている。だから、僕がそうだったように、小説もやりたいし詩もやりたいし、哲学も映画も演劇もやりたい、分野を問わず「文学」というものをやりたい人が文芸・思想専修に来るといいんじゃないかと思います。
長嶋 「何かを書きたい」と思っている人にはお薦めできます。ただ、文芸・思想専修に入って僕自身が痛感しているのは、「読まないと書けない」ということ。「書きたい」という思いのある人は、この場所でいろんな作品、そしていろんな読み方に触れてほしいです。
三浦 逆に私は、文芸・思想専修に入ったら「嫌でも小説を書かなくてはいけないんじゃないか」と思って、少し怖かったんです(笑)。けれども、そもそも「読むこと」、そして「書くこと」は、他者の考えを理解し、自分の考えを伝えるという意味で言葉の使い方を鍛えていくことなんですよね。だから怖がる必要はない、ということをかつての私に教えてあげたいですね。
直井 高校生でも中学生でも、自分の意見を話す機会はあると思います。でも、自分の意見を一方的に話しても仕方がなくて、人が書いたものや考えたことをしっかりと受け取って、そのうえで新しい言葉を生み出していくことが必要だと思うんです。だから、「読まないと書けない」というのは本当にそうで、文芸・思想専修のよいところはその両方ができることですね。ただ文学や思想を読むだけでなく、より深く自分の言葉を形づくっていくことのできる場所が、文芸・思想専修なのではないかと思います。